2023年度   礼拝メッセージ
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聖書箇所

2024.01.14

白石剛史師    泥沼からの花

創世記38章1〜18節
聖書のみことば (新改訳聖書2017)  メッセージ  


彼が「しるしとして何をやろうか」と言うと、「あなたの印章とひもと、あなたが手にしている杖を」と答えた。そこで彼はそれを与えて、彼女のところに入った。こうしてタマルはユダのために子を宿した。

創世記38章18節

創世記38章1-18節 「泥沼から花」

これから4回に分けて、マタイ福音書のキリストの系図に登場する4人の女性(タマル、ラハブ、ルツ、ウリヤの妻)を一人ずつ取り上げたい。彼女たちはいずれも、女性が社会的に法的主体権を持てない古代社会で、男たちの傲慢・自己中心・汚れ・愚かさに翻弄されつつ、必死に生き延びた人たちである。その意味で彼女たちの物語は、哀しい中にも力強さ・逞しさを感じさせる。そして神は、罪の泥沼からさえも美しい花(救い主)を誕生させることのできる方であり、弱い立場にある者をむしろ選ばれる方であることを知らせてくれる。

 1.ユダとタマルの物語
 今回はまずタマルである。ヤコブの子ユダの長男エルの嫁であるタマルは、舅のユダを騙してペレツとゼラフを設けた罪深い女のように見られがちだが、問題は彼女自身にではなく、むしろユダや男たちの側にあったと言える。
 ユダの罪は、まず兄弟たちとの不和と訣別。異邦人(アドラム人)との生活と結婚。長男への異邦人の嫁取り。長男・次男を失った後、三男を失うことを恐れてタマルを実家へ戻し、幼い三男の成人までやもめとして暮らすように命じながら、結局結婚の約束を反故にしたことに見られる。そしてタマルは、長男エルの悪行と次男オナンの罪によって、立て続けに夫二人を神によって取り上げられた。つまり彼女は自らに何の落ち度もないのに、義父や夫たちという「男」のイスラエル優越思想・女性蔑視・自己中心と悪行の犠牲になったのである。
  ユダの子を残す以外に自らの存在意義を認められないタマルは、神殿娼婦(聖娼)に変装しユダを欺く。それは女性が自ら離婚する権利を持たない世界において、彼女が生き延びる最後の手段だったのだろう。作戦は見事成功し、タマルはペレツとゼラフを出産した。キリストはこのペレツの家系から誕生するのである。
 
 2.ユダ族とヨセフ族
  創世記はユダのタマル事件(38章)をヨセフ物語(37章と39章以下)の間に挿入するが、これは後のイスラエル史の伏線である。イスラエル史は、清廉潔白・純粋無垢なイメージのヨセフの子孫(北イスラエル王国)と罪にまみれたユダの子孫(南ユダ王国)の相剋となるが、不思議なことに前者は姿を消し、後者が残っていく。
 神は罪深き者が敢えて選び、法的人格権さえ持たない社会的弱者を用いた。救いの歴史を決定づけるのは、人間の徳・実績・才能などではなく、神の主権と憐れみと慈しみであることに、ユダやタマルと同じく罪の泥沼を生きる私たちは励ましを受ける。

 

創世記38章1〜18節

38:1 そのころのことであった。ユダは兄弟たちから離れて下って行き、名をヒラというアドラム人の近くで天幕を張った。
38:2 そこでユダは、カナン人で名をシュアという人の娘を見そめて妻にし、彼女のところに入った。
38:3 彼女は身ごもって男の子を産んだ。ユダはその子をエルと名づけた。
38:4 彼女はまた身ごもって男の子を産み、その子をオナンと名づけた。
38:5 彼女はまた男の子を産み、その子をシェラと名づけた。彼女がシェラを産んだとき、ユダはケジブにいた。
38:6 ユダはその長子エルに妻を迎えた。名前はタマルといった。
38:7 しかし、ユダの長子エルは主の目に悪しき者であったので、主は彼を殺された。
38:8 ユダはオナンに言った。「兄嫁のところに入って、義弟としての務めを果たしなさい。そして、おまえの兄のために子孫を残すようにしなさい。」
38:9 しかしオナンは、生まれる子が自分のものとならないのを知っていたので、兄に子孫を与えないように、兄嫁のところに入ると地に流していた。
38:10 彼のしたことは主の目に悪しきことであったので、主は彼も殺された。
38:11 ユダは嫁のタマルに、「わが子シェラが成人するまで、あなたの父の家でやもめのまま暮らしなさい」と言った。シェラもまた、兄たちのように死ぬといけないと思ったからである。タマルは父の家に行き、そこで暮らした。
38:12 かなり日がたって、ユダの妻、すなわちシュアの娘が死んだ。その喪が明けたとき、ユダは、羊の群れの毛を刈る者たちのところ、ティムナへ上って行った。友人でアドラム人のヒラも一緒であった。
38:13 そのときタマルに、「ご覧なさい。あなたのしゅうとが羊の群れの毛を刈るために、ティムナに上って来ます」という知らせがあった。
38:14 それでタマルは、やもめの服を脱ぎ、ベールをかぶり、着替えをして、ティムナへの道にあるエナイムの入り口に座った。シェラが成人したのに、自分がその妻にされないことが分かったからである。
38:15 ユダは彼女を見て、彼女が顔をおおっていたので遊女だと思い、
38:16 道端の彼女のところに行き、「さあ、あなたのところに入らせてほしい」と言った。彼は、その女が嫁だとは知らなかったのである。彼女は「私のところにお入りになれば、何を私に下さいますか」と言った。
38:17 彼が「群れの中から子やぎを送ろう」と言うと、彼女は「それを送ってくださるまで、何か、おしるしを下されば」と言った。
38:18 彼が「しるしとして何をやろうか」と言うと、「あなたの印章とひもと、あなたが手にしている杖を」と答えた。そこで彼はそれを与えて、彼女のところに入った。こうしてタマルはユダのために子を宿した。